『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』

 

遅ればせながら(数ヶ月前に)学会で本田先生の講演を拝聴し、なんてわかりやすい説明をされるのだろうと感銘を受けたので、著書も買って読んでみました。

 

発達障害を診断カテゴリではなく、特性の集合体としてパラメータのように見る見方をどうやったらうまく説明できるか、いつも頭を悩ませるのですが、書籍内に掲載されていた「縦軸をAS(D)特性、横軸をADH(D)特性としてそれぞれの強弱を表した図」は、定型〜発達障害スペクトラムを表すのにとてもイメージしやすいなと感じました。

 

発達障害の人は過剰適応しがち」「やりたいことを生活の中心に」というのは講演でもおっしゃっていた内容ですが、苦手を補ったり目立たなくする実用的な工夫と平行して、こういった大局に立った視点を忘れないようにしたいものです。

『ひといちばい敏感な子』

ひといちばい敏感な子

ひといちばい敏感な子

 

この文章、1年前に書きかけて下書きに入れっぱなしだったのですが、最近またHSP/HSCの文字列を目にするようになったので、もう一度書き直してみました。

 

ひといちばい敏感な子――Highly Sensitive Child.(大人の場合はPerson)
この概念の提唱者であり、著者のアーロン氏によれば、その特徴は以下のようにまとめられています。

  • 子どもの15〜20%にみられる
  • ちょっとした味の違い、室温の変化、大きな音、まぶしい光などに敏感に反応する
  • よく見て考えてから行動するので、臆病・恥ずかしがり屋・引っ込み思案に見える
  • 感受性が強く、傷つきやすい。人の気持ちにもよく気がつく

 

もう少し厳密な定義を紹介すると、次の4つの性質”DOES”がすべて当てはまること、とされています。

(1) Depth of processing(深く処理する)
情報を深く、徹底的に処理する。一つのことをじっくり考える。そのため行動を起こすのに時間がかかることがある。

 

(2) being easily Overstimulated(過剰に刺激を受けやすい)
どんな情報も深く処理するため、刺激が過剰になりやすい。そのため精神的に負荷がかかりやすい。

 

(3) being both Emotionally reactive generally and having high Empathy in particular(全体的に感情の反応が強く、特に共感力が高い)
他者の反応についても人一倍観察し、深く感じ取る。他者の感情反応に共感・同調しやすい。残酷なこと、不公平なことに強く反応しやすい。

 

(4) being aware of Subtle Stimuli(ささいな刺激を察知する)
小さな音、かすかな臭い、人の外見や家具の配置の変化、声のトーンの違いや視線など、細かいことに気がつく。

 

 

自閉症スペクトラムの特性の一つである感覚過敏とは明確に区別されているのですが、自分にはいまいちしっくり飲み込めませんでした。

HSCは情報の選別はできるが、深く精密に処理しようとするため、情報量に圧倒され処理が追いつかないのだ、という説明がされていましたが、プロセスとしては同じことのように思えます。それよりも、

  • ASD→情報の社会的意味に気づきにくい
  • HSC→情報の社会的意味に対しても敏感に反応しやすい

という社会性の違いとして説明されたほうが、わかりやすく明確な差異として感じられました。

 

包含する行動特性が広すぎて、医学的にどの程度妥当性のある概念かと言われると疑問符がつきます。

一方で、臨床的には確かに「過敏で一見ASDっぽいけれど、社会性は低くない子」に会ったこともあります。

 

そして、ネットを覗くと「自分/うちの子はこれだ」という人がかなりの数現れており、最近はTV番組でも取り上げているようで、じわじわと市民権を得ていることも捨て置けないと思います。

長年抱えてきた生きづらさ・育てづらさの原因が、環境や自分の選択した行動のせいではなく生まれ持った特性なのだという気づきが救いになるのは、発達障害のときと同じ現象ですが、よりニュートラルなこちらの表現が好まれるのは自然なことなのでしょう。

 

逆に言えば、発達障害の概念ももっと価値中立的になっていけば理解が広まるのだろうと思いますが、それは同時に“障害”であろうとなかろうと困っている人には手助けして当たり前という価値観を伴わないと、支援対象となるかどうかの分断を生むので難しいなと思いました。(ずいぶん前に同じようなことを書いてました)

 

ある属性の人々の自己理解の参考になる一方で、実体のはっきりしない概念が独り歩きしている怖さもありますが、心理臨床の現場にいる人は、こういう概念が流行っていること自体は押さえておいたほうがよいのかもしれません。

 

ちなみに最初にこの概念に出会ったのはこちら↓の本なのですが、こちらはアーロン氏の概念を都合よく自己解釈し様々な事象に当てはめた、アカデミズムに欠ける内容だったので、おすすめしません。 

 

『誤学習・未学習を防ぐ!発達の気になる子の「できた!」が増えるトレーニング』

 

誤学習・未学習を防ぐ! 発達の気になる子の「できた! 」が増えるトレーニング

誤学習・未学習を防ぐ! 発達の気になる子の「できた! 」が増えるトレーニング

 

 

慣れ親しんだはてなダイアリーから、ついにはてなブログに移行。

引き続き気まぐれに更新していきたいと思います。

 

さてこの本、タイトルやサイズはよくある療育本なのですが、ページをめくるとおや?と思わされます。

だいたいこの手の本はまず「発達障害とは」という教科書的な解説から入ることが多いと思いますが、こちらはいきなり成人の事例から始まります。

しかも「FXで親の遺産を全部溶かした!」「家がゴミ屋敷状態で近所からクレーム!」みたいなヘビーめのやつです。

 

その上で、その背景にある「誤学習・未学習」と、幼少期から適切な学習を積み重ねることの大切さについて説明しています。

 

紹介されている療育の内容も、ガチガチのトレーニング過ぎず、日常の工夫よりは少しインテンシブで、家庭で取り組むのにちょうどよいレベルです。

というか普段個別指導の中でしたり保護者に紹介したりしていることばかりなので、「そうそうこれ!」と思いながら読みました。

 

療育本もどんどんアップデートされ、洗練されていくので、マンパワー不足を補う上でうまく活用していきたいものです。

『自閉症 もうひとつの見方―「自分自身」になるために―』

自閉症 もうひとつの見方: 「自分自身」になるために

自閉症 もうひとつの見方: 「自分自身」になるために

  • 作者: バリー・M・プリザント,トム・フィールズ-マイヤー,長崎勤,吉田仰希,深澤雄紀,香野毅,仲野真史,浅野愛子,有吉未佳
  • 出版社/メーカー: 福村出版
  • 発売日: 2018/07/10
  • メディア: 単行本
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1年ぶりのブログ更新…。

某試験が終わり、中断していた本をようやく読了することができました。
すでに業界ではだいぶ話題になっていると思われますが、自閉症スペクトラムの人の行動特性について、温かな視点から読み解いた本です。

定型の人から見て“不適切な行動”を消去し“適切な行動”を学習させることを教義とした過激派ABAへのアンチテーゼが、おそらく背景にあるのだろうと思います。(本書脚注でも書かれているとおり、ABAの手法自体にイデオロギーはないのだけれど)

どんな行動にもその人なりの理由や思いが背景にあり、それを尊重することが支援の基本。

そこまではさほど目新しくはないけれど、一歩進んで「できなくて困っているから助ける」という上からスタンスではなく、「“〜したい”という本人のニーズに協力する」という姿勢を提示されたことは、自分の中で刺さるものがありました。

言い換えただけですること自体は同じかもしれない。でもその心持ちで変わってくるものがあるような気がしました。


このテーマは実は自閉症に限らず、すべての子育てに通ずるところでもあって。

駄々をこねる、イタズラをする、悪態をつく、ぐずる、癇癪を起こす、イケナイことをわざとする…。

ASDの子だと不可思議な行動と思われることが、定型の子だと意図がわかる分「ふざけている」「わがまま」と取られてとにかく叱られたりしていて、でも根は一緒だよなぁと思ったりしました。

原題の”UNIQUELY HUMAN”は、そういう意味で誰もが尊重されうる個人であることを表しているという点でも、深いタイトルです。

『発達障害の子どもの「できる」を増やす提案・交渉型アプローチ』

本田秀夫先生の講演資料で見かけた“合意”というキーワード。
 
資料だけだと細かい部分はわからなかったのだけど、たまたま書店で見かけたこの本の「提案・交渉型アプローチ」がちょうどそれにあたりそうで、読んでみました。
 
いわく、「叱らないけど譲らない支援」。
「やるかやらないか(=叱って言うことを聞かせるか、放っておいたり言いなりになるか)」の2択ではなく、「部分的にする・条件付きでする」など間の選択肢を用意し、選択してもらう。
交渉の主導権は大人にあるけれど、決定の主体は本人であるというところがポイントです。
 
発達障害のある子への支援アプローチとしては「叱らずほめて伸ばす」ペアレントレーニングというのがまずあって、本質的には同じだと思うのですが、年齢が上がるにつれて成功体験で終えるためのお膳立ての仕方にもコツが必要になってくるので、次のステップとしてとてもわかりやすい説明だと思いました。
 
この本自体は発達障害児支援をテーマに書かれていますが、定型の子の子育てや部下の育成など、あらゆる教育に有用な方法です。
 
子育てや対人支援を日常している人なら普通に使っているスキルでもあると思いますが、一方で最近だと高校での黒髪強制問題が話題になっていたように、「叱って何かをさせる」以外の教育方法を知らない人が多いのも事実で、「教育力の教育」も現代の大事なトピックだなと思いました。

『子どものための発達トレーニング』

ゴールデンウィークに読んでいたのですが、感想を書く前にネットで話題になってしまい、後追い感が否めないレビューに。。


書店でタイトルを見ておっと手を伸ばし、著者名を見ておっと手を止めるも、中心となる発達トレーニングの部分は現場の臨床心理士・臨床発達心理士の方々が執筆していることを確認して購入しました。


発達課題を従来の診断ベースではなく、注意力、ワーキングメモリ、視覚・空間認知等、認知機能ごとに分けて記述しているところは実用的です。

また、

<注意の課題>

  1. 注意の持続
  2. 選択的注意
  3. 注意の転換
  4. 注意の分配

<社会性の課題>

  1. 注意・関心の共有
  2. 模倣と情緒的チューニング
  3. 心の理論と見立て遊び
  4. 能動的コミュニケーション
  5. 共感的、相互的応答
  6. 常識的なコミュニケーションと暗黙のルール

とさらにブレイクダウンしているところも参考になりました。


レーニング方法も、オーソドックスなものを中心に具体的に載っています。(幼児で使えそうなものはあまり多くなかったですが)


ただ、場面緘黙の子どもに発声練習を促す方法や、終章に差し込まれている「愛着アプローチ」なるものなど疑問符のつくものもあり、そのあたりは要注意と感じました。

発達支援のベースに安定した愛着関係が必要なのはそのとおりなのですが、「産後すぐ母親が働き始め」「幼い頃から叱られることが多」かったというだけの事例を「愛情不足やネグレクトからくる愛着障害」と診断するのはちょっと見識を疑います。

本人の特性か愛着の問題かというのは簡単に鑑別できるものでもなく、丁寧な見立てに沿った対応が必要なわけで、「発達トレーニング」の一つとして「愛着アプローチ」を取り上げるのはいささか軽率ではないかと感じました。