『ひといちばい敏感な子』
この文章、1年前に書きかけて下書きに入れっぱなしだったのですが、最近またHSP/HSCの文字列を目にするようになったので、もう一度書き直してみました。
ひといちばい敏感な子――Highly Sensitive Child.(大人の場合はPerson)
この概念の提唱者であり、著者のアーロン氏によれば、その特徴は以下のようにまとめられています。
- 子どもの15〜20%にみられる
- ちょっとした味の違い、室温の変化、大きな音、まぶしい光などに敏感に反応する
- よく見て考えてから行動するので、臆病・恥ずかしがり屋・引っ込み思案に見える
- 感受性が強く、傷つきやすい。人の気持ちにもよく気がつく
もう少し厳密な定義を紹介すると、次の4つの性質”DOES”がすべて当てはまること、とされています。
(1) Depth of processing(深く処理する)
情報を深く、徹底的に処理する。一つのことをじっくり考える。そのため行動を起こすのに時間がかかることがある。
(2) being easily Overstimulated(過剰に刺激を受けやすい)
どんな情報も深く処理するため、刺激が過剰になりやすい。そのため精神的に負荷がかかりやすい。
(3) being both Emotionally reactive generally and having high Empathy in particular(全体的に感情の反応が強く、特に共感力が高い)
他者の反応についても人一倍観察し、深く感じ取る。他者の感情反応に共感・同調しやすい。残酷なこと、不公平なことに強く反応しやすい。
(4) being aware of Subtle Stimuli(ささいな刺激を察知する)
小さな音、かすかな臭い、人の外見や家具の配置の変化、声のトーンの違いや視線など、細かいことに気がつく。
自閉症スペクトラムの特性の一つである感覚過敏とは明確に区別されているのですが、自分にはいまいちしっくり飲み込めませんでした。
HSCは情報の選別はできるが、深く精密に処理しようとするため、情報量に圧倒され処理が追いつかないのだ、という説明がされていましたが、プロセスとしては同じことのように思えます。それよりも、
- ASD→情報の社会的意味に気づきにくい
- HSC→情報の社会的意味に対しても敏感に反応しやすい
という社会性の違いとして説明されたほうが、わかりやすく明確な差異として感じられました。
包含する行動特性が広すぎて、医学的にどの程度妥当性のある概念かと言われると疑問符がつきます。
一方で、臨床的には確かに「過敏で一見ASDっぽいけれど、社会性は低くない子」に会ったこともあります。
そして、ネットを覗くと「自分/うちの子はこれだ」という人がかなりの数現れており、最近はTV番組でも取り上げているようで、じわじわと市民権を得ていることも捨て置けないと思います。
長年抱えてきた生きづらさ・育てづらさの原因が、環境や自分の選択した行動のせいではなく生まれ持った特性なのだという気づきが救いになるのは、発達障害のときと同じ現象ですが、よりニュートラルなこちらの表現が好まれるのは自然なことなのでしょう。
逆に言えば、発達障害の概念ももっと価値中立的になっていけば理解が広まるのだろうと思いますが、それは同時に“障害”であろうとなかろうと困っている人には手助けして当たり前という価値観を伴わないと、支援対象となるかどうかの分断を生むので難しいなと思いました。(ずいぶん前に同じようなことを書いてました)
ある属性の人々の自己理解の参考になる一方で、実体のはっきりしない概念が独り歩きしている怖さもありますが、心理臨床の現場にいる人は、こういう概念が流行っていること自体は押さえておいたほうがよいのかもしれません。
ちなみに最初にこの概念に出会ったのはこちら↓の本なのですが、こちらはアーロン氏の概念を都合よく自己解釈し様々な事象に当てはめた、アカデミズムに欠ける内容だったので、おすすめしません。
子どもの敏感さに困ったら読む本: 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方
- 作者: 長沼睦雄
- 出版社/メーカー: 誠文堂新光社
- 発売日: 2017/06/15
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