『〈叱る依存〉がとまらない』

 

僕が書き溜めている「やりたいことリスト」に、「ホメホメプロジェクトを始める」というのがあります。

ネーミングはともかく、子ども虐待を予防する上で、個々のケースへのアプローチとは別視点で、この国にはびこる"叱って育てる文化"をどうにか変えていけないかというアイデアをメモしたものです。

 

相手の行動を変えようとしたときに、叱ったり罰を与えたりすることには限定的な効果しかない一方副作用が大きく、有効な手段ではないということが科学的には明らかなのに、その知見はなかなか広まっていきません。

 

これは親子間の子育てに限った話ではなく、教師と生徒、上司と部下、先輩と後輩、コーチと選手など、あらゆる人間関係にあてはまります。

子育て支援の領域ではペアレント・トレーニングの考え方が紹介されたり、学校領域では一部の地域でPBSが導入されたりしているけれど、いずれも限定的で、そんなアプローチの仕方を知らないという人が世の中の大多数だと思います。

 

でも、例えばセクハラや喫煙についての常識は、数十年前と今では大きく変化しました。

「育て方」についての風潮も、ムーブメントが起きれば変えていくことができるのではないか――そんな考えを随分前から頭の片隅で温めていたところ、先日目にとまったのがこの本でした。

 

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タイトル、そして著者がTwitterでおなじみの村中さんということもあり、一見してこれは!と思いましたが、期待通りの本でした。

上で僕が「科学的には明らか」で済ませた叱ることの作用に関するエビデンスを、脳科学の知見も交えて丁寧に解説してくださっています。

叱ることがもたらす恐怖や理不尽は学びにとってむしろ阻害要因であり、本人自身の「やりたい」「ほしい」という欲求がベースにあってこそ、というのは、実際の子どもたちとの関わりの中での実感とも合致します。

 

また、叱る側の「処罰感情の充足」が「報酬」、つまり脳にとっての快楽になっているというのも、すべての人が認識しておかなければいけないことだと思いました。

快楽を伴うが故に、叱ることをいきなり叱ってやめさせることもまた難しく、“徐々に手放していく”発想が必要。そのためには、何はともあれ叱る人にゆとりがないといけない、というのは、支援者が心得ておかなければいけない視点だと思いました。

直接的にできることはその子に合った伝え方の技術を一緒に考えていくことくらいだったとしても、叱らざるを得ない、余裕が持てない背景に思いを巡らし、共感する姿勢を忘れないようにしたいと思います。

 

余裕という点では、“叱って管理する先生”のエピソードを聞くたびに、保育・教育現場にもう少し余裕があれば…と思ったことも一度や二度ではありません。

現場で腐心する先生方のおかれる環境が、少しずつでも改善されることを期待したいです。

 

あらゆる場面で「教育」に携わるすべての人にとって、これから必読書となるであろう、普遍的な価値のある本でした。