『天気の子』

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話題作りのために「天気の子」を観てきました。
特別感銘を受けたというわけでもないのですが、「考えること」と「それを言語化すること」のストレッチのために感想を書いておきます。

(※以下ネタバレしか含みません。ご注意)

 

 
児童相談所の位置づけ】

物語に“児童相談所”が出てくると反応してしまう性なので、まずはこの話から。

 

今回の話の主人公は家出少年。家出の理由がいわゆる田舎の閉塞感なのか、ちょっとした家庭内の諍いだったのか、虐待に近い家庭環境に置かれていたのか、その詳細は一切作中では語られませんでしたが、ともかく少年は一人で“東京”にやってきます。家族も一切描写されません。

もう一人の主役・陽菜も、一年前に母を亡くして小学生の弟とアパートに二人暮らしという、非現実的な設定。父親の存在は不明。そのため、やはり家族は登場しません。

 

この時点で、「あぁ、子どもに自由に振る舞わせたい大人の都合で大人が排除された世界観なんだな」という思いに駆られます。

 

ファンタジーであればそれでも構わないのだけれど、妙なリアリティを演出するために、近年ではそこに児相が登場するシーンをよく目にします。(こども+シングルマザーだけど、「おおかみこども」でもそんな場面がありました)

 

ただ、描かれ方はいつも紋切り型で、「“不足はあれど平穏な暮らし”を脅かす存在としての児相」なんですよね。

今回の場合警察もそうですけど。

 

主人公がアウトローなら体制側が敵役になるのは、古今東西共通といえばそうなんですが、設定の無理をごまかすためのエクスキューズとして登場し、なんら子どものためになることをしない存在として描かれるのは、なんだかなーとモヤッてしまいました。

 

 

【仮初めの幸せと不可解な絶望】

舞台が現実世界の東京でありながら、子どもだけで暮らす。当然貧しい生活を余儀なくされます。

そんな中、逃避行中にラブホに身を隠し、つかの間の贅沢を味わう。といっても、インスタント食品をあるだけ食べたり、カラオケを歌ったりと、本当にささやかなことなのだけれど、誰にも邪魔されずに安らげる時間を満喫して、帆高は願います。

「神様、これ以上僕たちに何も足さず、何も引かないでください」

 

この台詞、あまりしっくりこなかったんですよね。

もちろん彼にしたら、大切な人とだけの世界にいられる人生最高に幸せな瞬間だったのだろうと思うけれど、「足さない」ことと引き換えに「引かない」ことを願うって、完全に未来への希望を捨てている人の台詞なんですよね。

ちょっと違うけれどハンターハンターの流星街の住人のメッセージが真っ先に頭に浮かびました。

 

そこまで彼を絶望させるものの正体は一体何なのか?

単に「いずれ警察に捕まるから」ではない、そもそも警察から逃げているのは「実家に連れ戻されたくないから」であり、そこまで彼が世界に幻滅しているのはなぜなのか?

 

エピローグまで見るに、単なる思春期の厨二病的心性というか、無知と若気の至りだったのかなと思いますし、それはそれでありだとは思いますが。

 

貧困や家庭事情による諦めの象徴なのだとしたら、世相の反映としては嬉しくないなと思ってしまいました。

 

【ラストについて】

なんだか批判的な感想になってしまいましたが、ラストは少し予想外で、面白かったです。

一人の犠牲で世界が救われた、マジョリティのハッピーエンドでもなく、

世界が晴れて陽菜も無事だった、全方位のハッピーエンドでもなく、

世界を犠牲にして一人を救う、半径5mのハッピーエンド。

 

でも、世界は意外と逞しくて、街が水没しても、人々は住む土地を変えたり、水運を発展させて、なんとかやっている。

別に僕たちが責任を取る必要はなくて、みんなで少しずつ、なんとかしていけばいい。

だから僕たちも、世界も、「大丈夫」。

 

これも「人に迷惑をかけるな」という世間の強烈な圧力に対する、一種のアンチテーゼなのかなと思いました。

もっと素直に、大切にしたいものを堂々と主張していいんじゃない?という。

 

これについては監督がまさに意図した結末だったということがパンフレットを読んでわかり、まんまと乗せられたというか、自分の感性の凡庸さを感じました。笑

 


【映像について】

正直ストーリーよりも心に残ったのは、完璧に再現された新宿の街並みの美しさでした。

えっここまで描き込むの、という。

他のシーンでも、一瞬写真かと思うような画もありました。

 

「オリンピック前の東京を描いておきたかった」と監督が話していましたが、まさしくこれから数十年後には、過去の貴重な記録になるかもしれない。

そう思うと、改めて京アニの事件の悲惨さを感じ入ったりもしました。

 

花火シーンも綺麗で、隅田川花火大会の裏で大画面の花火を拝めて、ちょっとラッキーな気分に。

 

 

【おわりに】

前知識なしでも十分楽しめる内容でしたが、小説版のほうが色々裏設定含めて書いてあるみたいなので、そのうち読んでみたいと思います。

 

小説 天気の子 (角川文庫)

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