『「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす』/『朝が来る』

「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす 愛知方式がつないだ命 (光文社新書)

「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす 愛知方式がつないだ命 (光文社新書)

子ども虐待がもたらす最悪の結果は、子どもが命を落とすこと。

"虐待"というと、泣いている子どもを親が折檻して…というイメージがまず湧きやすく、虐待死もその暴力がエスカレートして…と思いやすいかもしれない。
あるいは食事をまったくorほとんど与えず餓死させる、というケースも、しばしばニュースで耳にする。

そういう"子育て中に起こる虐待"を防ぐために、既存のシステムが少しずつ強化&改善されているけれど、それとは少し違う方向性で、ここ数年"妊娠期からの支援"に注目が集まるようになっている。

死亡事例の検証から、その約4割が0歳児で、さらにその4割が生後24時間以内に亡くなっており、これを防ぐためには出産前から周囲のサポートが不可欠だと認識されるようになってきたからだ。*1

例えば大阪府が2011年に始めた電話・メール相談「にんしんSOS」は全国に広がり、今年の4月には全国ネットワーク会議も開催されている。
(とはいえ、まだ「にんしんSOS」で検索しても各都道府県や市、民間の慈恵病院等のWebサイトが乱立しており、ユーザーフレンドリーとはとても言えない。誰かまとめサイト作って。)



そして、支援の1つとして注目されている方法が、この本の主題である「特別養子縁組による命のリレー」。

様々な事情で産みの親が育てることができない赤ちゃんを、子どもを育てたい夫婦に託し、実子として養育してもらうシステムだ。

こう書くと単なるマッチングサービスのように思えてしまうけれど、この本で紹介されている愛知県での先進的な取り組み(「愛知方式」)は、「子どもの権利・福祉・利益の保障」を最重視している。

そのため、「子どもを選ばず、どんな子どもであっても親として責任をもつ」「適切な時期に養子であることを本人に告知する」「養子縁組の体験を積極的に次の立場の人に説明する」といった条件を養親に課している。

そのぶん仲介の手間も技量も必要だけれど、成立すれば子ども・産みの親・育ての親とも幸せになりうる"三方良し"のシステムとなっている。



なかなか素晴らしい仕組みなので全国に広がってほしいと思っているのだけれど、自治体が積極的でない理由の1つとして、まさにその手間や時間をかける余裕がない、ということのほかに、「子どもに病気や障害があったときに育ての親からクレームが来る」ことのリスク回避がどうやらあるようだ。

「どうせもらうなら健康な子を」と素朴な希望をもつ養親がいるのも、わからなくはない。でもだからこそ、「理想どおりに育つ子どもなんていない」ということを事前に十分説明すべきだし、「それでも不満を持つ人はいる」というのなら、病気や障害のある子を育てる親への支援体制は十分か?という、そちらの方を顧みてほしい。

実親か養親かに限らず、子育てする親が、孤立せず、疲弊しすぎず、大変なときがあっても前に進もうと思えるようなサポートが整っているか?結局そこなのだと思う。



本書では愛着障害についてもページが割かれ、具体的に説明されている。
ただし、性的行動に関する記述については、仁藤夢乃さんのブログで言及があるので、こちらも併せて読んでもらいたい。
【必読!】児童養護施設での性虐待、家出、売春について『「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす』を読んで



実際に特別養子縁組を通して生まれたご家族の体験談として、こちらもおすすめ。

産めないから、もらっちゃった!

産めないから、もらっちゃった!

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さて、もう1冊の『朝が来る』。

朝が来る

朝が来る

普段は文庫派なのだけれど、帯でテーマを知って、これは今読むべきと買ってしまった。

心理描写の得意な辻村さんなので、制度の不備や世間の風当たりからくる当事者の葛藤が描かれるのかと勝手に期待していたのだけれど、特別養子縁組の話はプロローグに過ぎず、思っていたのとはちょっと違った。いつもに比べると、予想を上回る展開がなかったな、というのが感想。

1つ印象に残ったことを挙げるとすれば、「他人に相談できることの健全さ」。

読みながらたぶん誰もが「誰かに相談すればいいのに」という感想を持つと思うのだけれど、相談できるということ自体がそれまでの恵まれた対人関係の産物で、不遇な人ほどそういう発想が持てないという実態が、よく描かれているなと思った。