映画『きみはいい子』

おそらくこの映画のテーマは、「誰もが『あなたは(あなたのままでここにいて)"いい子"だよ』と抱きしめてくれる存在を必要としている」「だから身近な誰かに対して、優しくなろう」といったところだろうか。

主人公の姉が説いた「私がこの子に優しくすれば、この子もみんなに優しくする。だから子どもを可愛がれば、世界が平和になる」という台詞が、そのまま主題と言ってよさそうだ。

アプローチは逆だけれど、だから子どもにとってその"必要な存在"である保護者の支援をしよう、と昔思い立ったことを思い出した。

『きみはいい子』公式サイトはこちら



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(以下、ネタバレ含みます)



本人なりに精一杯の努力をしているものの、技量も熱意もなく空回りを続ける新人小学校教師。

ママ友づきあいをする裏で、子どもを可愛がれず、事あるごとに手を上げる母親。

認知症になりかけの高齢女性と、おそらく自閉症と思われる男の子の交流。


物語は3つのストーリーが平行して進む。



義父からの虐待が疑われる少年は、「僕が"悪い子"だから」と不満を口にすることもなく日々を過ごし、毎日校庭でひとり時間を潰している。

息子に障害があるゆえに頭を下げ続けてきた母親は、老女に「こんな"いい子"はいない」と思いがけない褒め言葉をかけてもらったことで涙する。

虐待・いじめ・発達障害など、教育現場が抱えるトピックを織り交ぜながら、冒頭に掲げたテーマが一貫して描かれていて、ブレずにメッセージが伝わる映画。その点はとてもすっきりしていて、完成度が高いと感じた。



気になったのは、主人公の教師の対応が最悪だったこと。

中途半端に虐待を疑うようなことを口にして親を怒らせ、室内から怒鳴り声や物音が聞こえているのにそのまま帰宅。

学校内で児童に事情聴取のようなことをして、本人が否定したらそこで終了。たぶん児相通告もしていない。

極めつけはそういう境遇の子どもがいるとわかっていて「家族に抱きしめられてくること」という気持ち悪い"宿題"を出し、「やってこれるか?」と質問。その子は「絶対やってきます!」と振り絞るように叫んで、翌日欠席。

公式サイトでは「まじめだが優柔不断で、問題に真っ正面から向き合えない性格」と紹介されているけれど、いやいやそういう問題じゃなくて、明らかに教員に必要な知識も想像力も欠けてるでしょ、と思ってしまうのだけれど、これも現実に教育現場が抱える課題の一部、と思えばいいのだろうか。


リアリティと言えば、障害児役の子をはじめ小学生たちの演技が皆うまかったのが印象に残った。

虐待シーンも生々しいので、見るのがつらい人もいるかも、
被虐待児役の子の心理ケアはちゃんとされてるだろうか、という点はいつも心配。