『ルポ 産ませない社会』

ルポ 産ませない社会

ルポ 産ませない社会


『「産めない」のではない。社会が「産ませない」のだ。』

帯に書かれたこのフレーズが、何十年たっても改善しない事態への憤りと悲痛さを感じさせる。



第一章ではこれまでの子育て支援本でも訴えられてきたような、女性が子育てをしながら働き続けることの難しさ、孤立する母親、低い男性の育児休業取得率、高年齢出産のリスク、保育サービスの不足などの問題が列挙されている。

本書で記述が厚いのは、第一章の一部と第二章以降に描かれる、妊娠期の女性に対する風当たりの強さ(最近急にワードを目にするようになった、いわゆる“マタニティ・ハラスメント”)と、出産・育児を支える産科・小児科の危機的な労働環境について。

医療現場がブラックだという話はよく聞くけれど、人員不足から患者一人ひとりに寄り添うこともできず、流れ作業化したケアを"こなす"中で、唯一の動機づけであったやりがいさえも失われていくというエピソードを聞くと、本当に深刻なのだなぁだと思う。



政治家はこぞって「少子化対策」や「待機児童解消」を公約に掲げて、表向きは"子育て支援がなされて当たり前"というのが世の中のタテマエになっているけれど、現実には悪阻くらいで仕事を休むなとか、定時・時短で人の残業を増やすなとか、ベビーカーで電車に乗るなとか、シングルで子どもを産むなんてけしからんとか、思っている人がたくさんいて、本気で子育て支援をしようと思っている人なんて多くはないのだ。

それらは「わかっていて妊娠した・産んだのだから」と個人に帰される問題ではなく、代替人員の確保や仕事をフォローする同僚への補償をしない経営者の問題であり、そういった制度設計にインセンティブを設けない行政の問題なのだと思うのだけれど。

まぁそうするとそういう政策に本当に力を入れる政治家を選ばない国民の問題に帰着するわけで、だから結局は地道に問題を訴え、理解者を増やしていくしかないのだろう。

明日の選挙を前にそんなことを思う。



SBS(乳幼児揺さぶられ症候群)、食品アレルギー、カンガルーケアなど個人的にホットなトピックがちらほら出てきて、興味深く読めた本。